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説明の困難さ - 原告「妖異可視ビジブル」被告「見える子ちゃん」の著作権侵害裁判まとめ

原告「妖異可視ビジブル」、被告「見える子ちゃん」裁判まとめ
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漫画の著作権裁判における表現説明の難しさ
本件の裁判では漫画のコマをバラバラに切り取った「1枚の絵と1枚の絵」として比較する形で進められました。
例えるなら、「みずみずしいスイカ事件」(東京高判平成13年6月21日)の裁判の判断方法です。
漫画作品全体や文脈ではなく、表面的な「間違い探し」のような議論になりました。
 

【引用元】
  • ウェブサイト名(運営元): 弁理士法人 三枝国際特許事務所
  • ページタイトル: タウンページ・キャラクター事件 みずみずしいスイカ 事件

漫画特有の技法や構造が理解されにくい中で、創作性や類似性を主張することには以下のような困難がありました。


1. 「1対複数」の展開・類似性の説明

原告側のたった1つの表現(または1体のモンスターデザイン)に対し、被告側がそれを元に類似した複数の表現へ展開しているケースが多くあります。
このような1対複数の関係性や展開のプロセスを、書類上で論理的に説明・整理する必要がありました。


↓このように、原告の1つの表現から複数の類似点が集中するパターンが、いくつも見つかりました。
(原告著作物3話2頁)
2. 人体骨格・パース(遠近法)に関する反論への説明

原告側が「一文字(いちもんじ)の口元をアオリ(下からの視点)で描いている点」を類似点として指摘した際、被告側弁護士から「これは一文字ではなく、山の形の口である」と反論されました。
人間の骨格上、一文字に閉じた口を下から見上げると、パースがかかって山型に見えるのは理論的な表現です。
しかし、そうした絵画技法や構造上の必然性を「絵の違い」として主張され、裁判の中で分かりやすく説明し直す必要がありました。
3. コマの役割(情報の整理コマ と見せ場の大ゴマ)の解説


漫画のコマにはそれぞれ異なる役割があります。
説明のための小コマ 情報を整え、読者に負担をかけずスムーズに読ませるための目立たないように描くコマと、見せ場の大ゴマ・見開き センセーショナルな場面を印象付けるための派手なコマです。
裁判の中で、役割が異なるコマ同士を単純に「1枚の絵」として提示され、「描き込みの量が違う」「スピード線の有無が違う」などを相違点として反論されてしまうと、原告側が著しく不利な状況となりました。

4. 効果線の解釈と表現方法


原告の絵では、奥から手前へスピードを出して迫ってくるモンスターを描く際、「効果線」を用いて速度感を表現していました。一方、被告の類似絵では、このスピードを表現する効果線にあたる部分が「髪の毛」のように置き換えて描かれていました。
この両者の類似性を証明するには、漫画における効果線の役割という専門的な表現技法から細かく説明し、理解してもらう必要がありました。

【画像引用】MediBang Paint(メディバンペイント)
5. 情報の選択による「画面(カメラアングル)」の変化


漫画には、シナリオ(情報)を整理してコマに配置する技法があります。
例えば「A」という対象を説明するシーンにおいて、

  1. Aそのものを描く場合、Aがメインの画面になる。
  2. Aを説明している人物を描く場合、人物がメインの画面になる。

同じシナリオ・原作であっても、どちらの情報を画面のメインとして選択するかによってコマの中の絵は大きく変わります。
シナリオの一致と画面表現の違いの因果関係を説明するのは非常に困難でした。
【画像引用】MediBang Paint(メディバンペイント)
6. 視線誘導による絵コンテ・レイアウトの変化


視線誘導とは、読者の目の動きを計算し、負担なく自然に読み進められるように配置を設計する表現技法です。
これは折り込みチラシなどでも使われる一般的な技法ですが、漫画においては作品全体を通して必ず用いられる不可欠な表現です。

この視線誘導を考慮することで、同じシナリオや原案であってもコマの切り方(絵コンテ)や描かれる絵が変わってきます。しかし、この「視線誘導」という概念自体が裁判の場において理解されにくく、創作性や独自性の根拠として提示・立証することの難しさに直結していました。

【画像引用】MediBang Paint(メディバンペイント)
7.「漫画の圧縮・解放」の技術と見た目の異なり


同じ原案・同一の創作性に基づくシーンであっても、どの場面に演出の重きを置くかによって、各コマの情報を「圧縮(数コマを短縮・統合)」したり、「解放(大ゴマや見開きで拡張)」したりして描写の緩急・メリハリを調整する技法が存在します。
情報を効果的に整理・拡大するこの「圧縮・解放」のバランス変更が行われると、元となる骨組が同一であっても表面的な見た目のコマ割りや絵の構成は全く異なって見えます。
原告側は、同一原作でありながら作画担当・連載媒体の違いによってコマ割りの圧縮・解放が異なって表現されている実例として『薬屋のひとりごと』の2通りの漫画化作品(構成・アングルの違い)や、手塚治虫氏の著書『マンガの描き方 似顔絵から長編まで』における映画的シークエンス論を引き合いに出し、プロットや演出の依拠関係を論理的に説明しました。
しかし、こうした漫画表現における「変形・翻案」のプロセスが裁判で重視されることはありませんでした。

【引用元】
  • ウェブサイト名: MediBang Paint(メディバンペイント)
  • 運営会社: 株式会社MediBang
  • 記事タイトル: 初心者マンガ講座06 コマ割り・画面作りについて考えよう
  • 著者(ライター): ГФ(ゲーエフ)
  • 公開日: 2021年9月11日

【出典・書籍情報】
  • 書籍名(タイトル): 漫画のスキマ マンガのツボがここにある!
  • 著者名: 菅野 博之
  • 出版社: 美術出版社
  • レーベル: Comickersテクニックブック
  • 発行年月日: 2004年12月1日
  • ISBN-13: 978-4568502718(ISBN-10:4568502713)

中間プロセスを切り捨てる司法の限界と日本文化が抱えるリスク


本件で扱った表現は単なる1枚の絵の集積ではなく、コマ割り、キャラクターデザイン、演出、視線誘導、そして情報の圧縮・解放など、数多くの複雑な要素が時間軸と空間軸の上で重なり合って成立する「複合芸術としての漫画表現」です。
そのため、これを裁判資料として論理的に集約・立証することには極めて大きな困難が伴いました。
漫画の技法や構造を正確に説明しようとすると専門的な知識の解説が不可欠となり、「説明の上に説明を重ねる」ような膨大な資料を作成せざるを得ません。

しかし一方で、裁判所からは「要点をコンパクトにまとめるように」との指導を受けることになります。

そこで、膨大な情報量を絞り込み、シークエンス(一連の流れ・連続性)としての表現方法や、一目で直感的に類似性が伝わるビジュアル証拠を厳選して提出したところ、今度は「全体像が見えてこない」と指摘される事態に陥りました。

  • 表現の本質を網羅しようとすると、情報量が膨大になりすぎて受け入れられない
  • 情報量をコンパクトにまとめようとすると、表現の全体像が伝わらなくなる

このように、どちらを選択しても主張が正しく伝わらないという深いジレンマに直面することとなりました。


さらに根本的な問題として、裁判所側の審理姿勢そのものが挙げられます。
本来であれば、原案や創作的表現がどのような思考・技法プロセス(1→2→3→4)を経て形(5)になったのかという「演出の構造・展開の必然性」を分析すべきです。
しかし実際の審理では、プロセスの文脈(1〜4)は切り捨てられ、最終的な「5(結果)」として現れた表現のみを見て、結論ありきの表面的かつ部分的なイラスト比較に終始してしまいました。


現在(2026年時点)、国を挙げたクールジャパン政策のもとで漫画やアニメを「日本の重要コンテンツ」として世界へ発信する取り組みが推進されています。

しかしその足元では、日本の誇る漫画表現の奥深い構造や高度な創作性を法的に保護する術(すべ)も、それを適切に評価できる司法の明確なフレームワークも未だ確立されていません。


どれほど巧妙に他者の創作的演出や構造を翻案・吸い上げたとしても、コマの圧縮・解放やアングルのマイナーチェンジをおこなってしまえば「1枚の絵としては異なる」としてお咎めなしになってしまうのが、現在の漫画をめぐる著作権裁判の実態です。
この構造的な欠陥が放置され続ける限り、今後も同様の被害が生じ、やがては日本の漫画文化の根幹が脅かされるという大規模で取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。


漫画という表現媒体の特性と制作の実態に即した、実効性のある法解釈・立証プロセスの確立と、より深い法的理解の整備が切に求められています。

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作品名:「妖異可視ビジブル」
著者名: 松尾明日太
発表:2015年~2018年8月



作品名: 「見える子ちゃん」
著者名: 泉 朝樹
発表:2018年9月~
出版社: 株式会社KADOKAWA
掲載レーベル: MFC(MFコミックス)
/ WebComic アパンダ(ComicWalker)
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